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<スピンオフ> 第2章 京極正人 10

last update Last Updated: 2025-08-04 21:19:12

 京極から借りたパソコンは3年間刑務所に入っていた飯塚にとっては最新モデルに感じた。

セキュリティもしっかりしており、ネットの速度も速い。

飯塚はパソコンでインターネット求人サイトで検索をしながら呟いた。

「何が少し型落ちはしますが……よ。これって最新モデルなんじゃないの? 私が3年間アナログ生活を送っていたからひょっとして馬鹿にしてるのかしら?」

京極から性能の良いパソコンを借りておいて、飯塚は京極に対して文句を呟いていた。本当に自分でもどうかしていると思う。これほど良くして貰っているのに、感謝の言葉こそ言うべきなのに、素直になれない。

それどころか、飯塚の失礼な態度や言葉遣いにも一切、言い返すことも無く、ニコニコと言うことを聞いてくれる京極。だからこそ余計京極には自分の訳の分からない苛立ちやうっぷんをぶつけてしまいたくなるのかもしれない。

「本当に私って何やってるんだろう……。こんな性格だから家族にも友達にも見捨てられてしまったのかも……」

飯塚はポツリと呟きながら、ネットで仕事の検索を続け……いくつか希望の職種を見つけたので、早速自分のプロフィールを入力し始め…‥手を止めた。

「刑務所に入っている間の3年間……空白になってしまうけど、どうしたらいいんだろう……それに賞罰はどうするのかしら?」

飯塚は自分が買ってきた履歴書を見た。そこには賞罰を記載する欄は無い。しかし、履歴書の書き方のサイトを見る限り飯塚は賞罰を記載する必要がありそうだ。

(3年間の空白期間、私は傷害事件を起こし、刑に服していました……なんて書けるはずないじゃない!)

いっそ、服役したことなんか書かなければば、ばれないのでは……? そこまで思い、飯塚は念のために自分の名前を検索に掛けてみた。

「……!」

次の瞬間飯塚は凍り付いた。そこには自分の名前と共に3年前の傷害事件が詳細に記されていたからである。

「そ、そんな……」

飯塚の身体は震えた。まさかと思い、試しに別の方法で検索を掛けてみるとまたもや自分の名前がヒットし、事件の内容が記されていたのである。

「嘘……でしょう……?」

しかし、そこに表示されている内容は紛れもない事実。さらに掲示板を見ると、そこには飯塚の起こした傷害事件について、面白おかしく書かれていた。そのどれもが誹謗中傷が多く目立つ内容ばかりであった。

「フ……アハハハ……」

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